こんにちは!パチ子です。
雲州そろばん協業組合では、毎月数丁のそろばんの修理依頼が来るのですが、
2015年初の修理依頼は、めずらしいそろばんだったのでご紹介します。
有段者の生徒さんが、おじい様から譲り受けたという桐箱入りのそろばん。
箱書き、そろばんの作銘をみてみると、
「雲州 横田 千田作」とありました。
この方は千田 美一郎(せんだ みいちろう)さんという伝統工芸士で、
もうお亡くなりになっていますが、大変腕の良い名工で知られていました。
なんと、手廻しロクロを考案した村上 朝吉(むらかみ あさきち)の子孫にあたります。
朝吉は、当時(江戸後期)どの家にもあった糸繰車を改良して、手廻しロクロを考案しました。
この手廻しロクロで、かつてないほど小さく、粒の揃った珠を効率よく作ることが出来たそうです。
また、これまで一子相伝であったそろばんの技術を、朝吉は自分の製法や道具を公開し、
このことが地場産業としての発展につながったといわれています。
この技術は、朝吉の義理の兄であり、弟子でもあった千田六太郎からその子孫、弟子たちへと受け継がれていきます。
美一郎の父親・亀吉(朝吉の孫)もそろばん職人で、亀吉の一番弟子でもあった市田敏夫(伝統工芸士・永雲)に
そろばん作りを習ったそうです。
美一郎は「三代目朝吉」(さんだいめあさきち)としても、質の良いそろばんを数多く残しています。
美一郎のそろばんは、特に玉の弾きの良さが評価されていました。
数年前までは、在庫として「三代目朝吉作」のそろばんもありましたが、
すでに完売となり残っておりません。
もし「千田作」「三代目朝吉作」のそろばんをお持ちの方は、
貴重なそろばんですので大事にしてやってくださいませ。
修理依頼のそろばんは、長らく使われていなかったことから、
玉の動きが悪かったのですが、きれいにクリーニングして、
弾きも良くなりました。
もちろん、修理を手掛けたのは、
「現代の名工」伝統工芸士の二代目雲文です。
玉を弾くと、良いそろばんの証でもある冴えた音がよみがえりました。
2015年のスタートにふさわしい貴重なそろばんとの出会い。
白く雪化粧した里山に、心地よい玉音が響き渡るかのようでした。
千田美一郎氏略歴(伝統工芸士)
昭和10年11月15日生
昭和31年2月 市田敏夫氏に師事、そろばん製造技術の習得に努める。
昭和31年9月 自宅に於いてそろばんの製造にあたる。
昭和58年8月 雲州算盤品評会に於いて最優秀賞を受賞。
昭和59年 「島根県ふるさと伝統工芸品技術後継者表彰」受賞。
今回、この修理依頼をして下さった塾の先生から、
「このそろばんの歴史を知りたい」とのご希望で、
改めて「三代目朝吉」について調べてみました。
そろばんに関わる人々の記憶の中をたどり、
資料を探り、雲州そろばんの歴史を知れば知るほど、
それはとてもドラマティックでワクワクすることばかりです。
昭和52年ごろまでの歴史は、高橋一郎先生の「雲州そろばんの今昔~歴史とその技術」(絶版)に記されていますが、
その後のことを残しておかなくてはいけないと強く思いました。
雲州そろばんについて、これからボチボチ整理して、
こちらでもちょこっとずつアップしていきますので、
よろしくお願いいたします!